ケースレポートの書き方

 学校心理士の資格を取得するためには、ケースレポートを提出する必要があります。職種(学校の教員、スクールカウンセラー、大学の教員)に応じて、資格申請にはさまざまな類型がありますが、類型1,類型2、類型3の場合はケースレポートを提出しなくてはなりません。学校の先生方にとっては、ケースレポートを書くことは、色々な留意点があります。

 以下に、学校心理士の資格申請のためのケースレポートについて解説します。なおこの解説は2016年度の資格認定にはあてはまりますが、それ以降では、ルールなどが変更されている可能性があります。最新の情報をご確認いただくようお願いします。

ケースレポートの目的(学校心理士の申請)

 ケースレポートにはさまざまな種類があり、研究の一環として学問的な内容を追求するもの、援助サービスを実施していくために職場や連携機関で実践を共有するためのもの、などがあります。学校心理士の資格申請の際に求められるケースレポートの目的は、「自立した学校心理士として実践できる一定の力量を備えていることを示すことである。(中略)自分の力量や姿勢を評価するのに適切と思われる1ケースを選び、それについてレポートを執筆してほしい。」と書かれています(学校心理学ガイドブック 第3版 )。言うまでもないことですが、学校心理士として一定の水準を超えた実践を行うことができるということを示すためにケースレポートを書くのです。従って、特別にすばらしい実践が行えた事例や極めて珍しい困難事例についてケースレポートを書くのではなく、普段の実践をケースレポートとしてまとめていただくことが適切だと思われます。

 

ケースレポートの内容(学校心理士の申請)

「学校心理学ガイドブック第3版」によれば、ケースレポートは以下のような内容になります。

(1)テーマ、(2)表題、(3)報告者氏名、(4)報告者の立場、(5)教育援助の対象、(6)教育援助を行った機関、施設、場所、(7)期間、(8)教育援助開始時における対象者の問題の概要、(9)教育援助開始時における、対象児童生徒、学校、学級そして家族の環境などについての心理教育的アセスメントにの焦点、方法と結果、(10)に基づく教育援助開始時の教育援助の方針と計画、(11)教育援助の経過の概要、(12)教育援助の自己評価(自己点検)、(13)本ケースレポートにおける教育実践についての考察、となっています。

ケースレポートの書き方のポイント

 学校心理士取得に向けたケースレポートを書くときの注意点をまとめておきます。

ケースレポートには具体的で分かりやすい表現を用いる

 例えば、「(2)表題」においても、「子どもの未来を開く教育相談」というような表題は具体性が乏しく適切ではありません。「自己肯定感が低い生徒への個別面談を通した支援」などのように、表題を読むだけでケースレポートの内容を想像できるような表題が望ましいと思われます。その他の箇所についても同じことが言えます。
 

心理検査の使用

 学校心理士資格申請のケースレポートでは、「(9)教育援助開始時における、対象児童生徒、学校、学級そして家族の環境などについての心理教育的アセスメントにの焦点、方法と結果」として、アセスメントについて報告することが求められています。心理検査を使用しなければならないかという迷いが生じるかもしれません。心理検査は、アセスメントのツールとしては非常に強力ですが、心理検査がなければアセスメントできないということではありません。また、心理検査は援助の対象(子ども)に負担をかけることもあります。そのため、援助の初めの頃には、あえて心理検査を使用しないで援助を開始することも多いかと思われます。もちろん、資格申請のケースレポートを書くためだけに心理検査を使用することは非倫理的行為であり、学校心理士として相応しくない行為です。また、心理検査を適切に使用できることは学校心理士の重要な力量でもあります。心理検査を巡って、このように相反することを同時に考えていかなくてはなりません。
 このようなことを考え合わせると、心理検査を使用したのかしないのかではなく、心理検査の使用についてどのように専門性を発揮して判断したのか、その結果どのように選択したのかについて、ケースレポートに記述するべきだと考えられます。
 また、「(9)教育援助開始時における・・・」という項目では、開始時におけるアセスメントについて記述するわけですから、心理検査を行っていない場合でも、観察や面接、作品などを通して事実を収集しアセスメントを行うことが重要です。ケース支援の進行に伴って、さらなるアセスメントの必要性が生じて心理検査を行った場合には、「(11)教育援助の経過の概要」で記述することが適切だと思います。
 なお、学校心理士資格認定委員会編による「学校心理学ガイドブック第3版」ではケースレポートの例が掲載されていますが、心理検査は使用されておりません。
 

ケースレポートで避けるべき表現

 援助対象の児童生徒や関係者、関係機関について、人格を否定するような表現は避けるべきです。例えば、「A子は、根暗でおとなしい性格であった」などという表現は適切ではありません。このような記述があるということは、ケースレポートの報告者が、児童生徒をそのように捉えているということであり、学校心理士として相応しくないと判断されると考えられます。
 ケースレポートはケースの被援助者や関係者が読むことはありませんが、仮に被援助者や関係者が読んだとしても不快に思わない表現を心がけることが大切です。また、もし、他の児童からそう呼ばれてからかわれていたという事実があるのであれば、「A子は他の児童から「根暗」などとからかわれることがあった。」などと具体的な事実が分かるように記述して下さい。

固有名詞のイニシャル表記は避ける

 K男、M美、などの表現方法は、イニシャル表記を思わせる記述です。S病院、H相談所などの記述も同様です。固有名詞は、イニシャル表記を思わせるようなアルファベットの使用ではなく、ケースレポートに出現した順番にA男、B中学校、C担任、D学年主任、E病院・・・、と表記して下さい。

過去形と現在形の適切に使い分ける

 援助の経過を記述する場合は、過去の具体的な事実について記述しているわけですから、文章は原則的に過去形となるはずです。
 心理検査結果などのアセスメント内容は、その時点での仮説ですので、一部、「A子は、概念的な思考には優れている」などのように現在形で記述される場合があります。項目を変える、箇条書きにするなどの工夫をして、分かりやすく記述して下さい。
 また、援助の経過の中でも、援助者の仮説や考えも「B男は不安を感じているかもしれない」などという仮説を立てる場合があります。その場合も「『B男は不安を感じているかもしれない』と報告者は想像した。」などのように記述すると表現の混乱を避けることができると思われます。

事実とそれに基づく推測を分けて記述する

 「C子は、数学が苦手で、授業をサボりがちであった。」という記述は、推測が事実であるかのように表現されています。例えば、事実は「中学2年生1学期の数学の中間テストでは30点であった。」「授業中には、数学の教科書もノートも机の上には出さないことが大半であった。」という記述であれば、事実に近い表現になります。こういった事実について関係者の誰かが「C子は数学が苦手で、サボりがち」と推測したと考えられます。これらを踏まえると「C子は、中学2年生1学期の数学の中間テストでは30点で、授業中には、数学の教科書もノートも机の上には出さないことが大半であった。『C子は数学は苦手で、サボりがち』と数学担当の教員は評価していた。」という記述は、事実と推測を分けた記述となります。より具体的に分かりやすくなり、ケースレポートでは、このように表現していくことが求められます。

文学的表現や比喩表現を避ける

 例えば、「D子は、相談室に駆け込んできた。」という表現はケースレポートには適切ではありません。事実として走って相談室に入ってきたのか、それとも、慌てて相談室にやってきたことを比喩的に表現したのか区別することができないからです。具体的な事実が分かるように記述することが重要です。

自己評価(自己点検)には新たな事実関係を書かない

 「(12)教育援助の自己評価(自己点検)」の部分には、実践家として自分自身のケース支援を振り返った内容を記述します。例えば、心理検査を使用しなかった場合、そのことがケース支援にどのような良い影響や悪い影響を与えたのかについて、振り返ってみてその内容を記述します。「当時は、○○について、・・・・と思っていたが、現在では□□と捉えている。××という支援方法もあったかもしれない。」などといったケースを支援した当事者としての振り返りを記述します。
 この箇所に、ケース支援の経過での新たな事実関係が記述されていることがあります。例えば、「母親は、『A子が学校へ通えるようになったのは、色々な先生が明るく声をかけてくれたお陰です』と話していた。」などという、支援の評価に関する事実関係がこの部分に記述されることが多いようです。関係者が支援をどのように評価していたかということも、支援の経過における事実関係の一部ですから、こういった事実関係は「(11)教育援助の経過の概要」に書いておかなくてはなりません。 「(12)教育援助の自己評価(自己点検)」の部分には、(1)から(11)までに記述された内容(特に「(11)教育援助の経過の概要、」)に書かれた内容について振り返りを記述します。

自己評価(自己点検)と考察は分ける

 ケースの援助の経過や結果についての考察は、 「(12)教育援助の自己評価(自己点検)」と「(13)本ケースレポートにおける教育実践についての考察」に分けられています。上述のように「(12)教育援助の自己評価(自己点検)」は自分自身の振り返りを記述します。ケース支援の当事者としての自分自身で支援を振り返った内容を記述します。
 一方「(13)本ケースレポートにおける教育実践についての考察」では、ケースを支援した当事者という立場から少し離れてた立場から考察します。過去の先行研究や先行事例を参照して、それと比較対照しながら、異同について論じることが大切です。学校心理学に関連する文献を引用して論じることが求められます。できれば、「日本学校心理士年報」(学校心理士認定運営機構)「学校心理学研究」(日本学校心理学会)に掲載されている論文を引用したり、学校心理士スーパーバイザーの著作を引用したりすると良いと思います。

 

ケースレポートは第三者に点検してもらうことをお勧めします

ケースの支援を始める前に、こういった観点を頭に入れておくと、ケースレポートが書きやすくなると思われます。また、いったん書き上げたケースレポートも、こういった観点から見直してみることが大切です。その際に、自分だけで見直しても、自分の力だけで修正点に気づくことは誰にとっても至難の業です。ぜひ、こういった観点から丁寧に見直してくれる第三者の力を借りることをお勧めします。