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公認心理師対策 講習会テキストの補足

 私は、臨床心理士ですが、学校心理士スーパーバイザーとしても活動しています。かねてから、学校心理学はスクールカウンセラーに必須の知識だと思っていたのですが、スクールカウンセラーをしている臨床心理士の皆さんには、学校心理学はあまり浸透してこなかったように思います。

 

 ところで、公認心理師のカリキュラムが明確になり、経過措置としての現任者のための講習会が行われています。その現任者講習会テキストでは、「教育における心理的課題と事例検討」という章では、学校心理学の理論が紹介されています。公認心理師が学ぶべき内容として取り上げられたということは、ある意味スクールカウンセラーにとってのスタンダードだということだと思います。これを機会に多くのスクールカウンセラーの皆さんに学校心理学を学んでいただけきたいと思います。

 

 さて、公認心理師現任者講習会テキスト[2018年版]の学校心理学に関して書かれている部分について、もう少し深く学んでいただきたいと思い、勝手に補足する内容を書いて見たいと思います。それは、心理教育的援助サービスのシステムにおける3段階の援助チームについてです(テキストp.97)。チーム学校での公認心理師の役割を理解するためにも、スクールカウンセラーとして現場で活動するためにも、この捉え方は役立つと思います。

 

 


チーム学校とは

 チーム学校とは、文部科学省の中央教育審議会から平成12月21日に出された「チームとしての学校の在り方と 今後の改善方策について」との答申に基づく考え方である。なお、「チーム学校」との用語が一般的に用いられているが、文部科学省は「チームとしての学校」という表現を用いている。

 「チームとしての学校」とは学校教育に対する様々な要請に応えるために目指すべき学校像としてまとめられたものである。文部科学省によれば、「教育活動の更なる充実の必要性」「学習指導要領改訂の理念を実現するための組織の在り方」「複雑化・多様化した課題」「我が国の学校や教員の勤務実態」という点から「チームとしての学校」が求められるとのことである。

 そして、「チームとしての学校」を実現するためには,次の3つの視点が重要である。

1 専門性に基づくチーム体制の構築

        教員が,学校や子供たちの実態を踏まえ,学習指導や生徒指導等に取り組むため,指導体制の充実が必要である。加えて,心理や福祉等の専門スタッフについて,学校の職員として,職務内容等を明確化し,質の確保と配置の充実を進める。

2 学校のマネジメント機能の強化

        専門性に基づく「チームとしての学校」が機能するためには,校長のリーダーシップが重要であり,学校のマネジメント機能を今まで以上に強化していくことが重要である。そのためには、主幹教諭の配置の促進や事務機能の強化など校長のマネジメント体制を支える仕組みを充実させていく。

3 教職員一人一人が力を発揮できる環境の整備

        教職員がそれぞれの力を発揮し,伸ばしていくことができるようにするためには,人材育成の充実や業務改善の取組を進めることが重要である。

 

解説

 チーム学校は、学習指導要領が改訂され、社会の動きに対応するためのアクティブラーニングなどが導入されたことに対応するということや、いじめ・不登校・発達障害・子どもの貧困などの様々な課題に対応するということ、学校の多忙化を解消するために、求められるということです。専門性に基づくチーム体制は「ヨコの連携」、学校のマネジメント機能の強化は「タテの連携」と言われたりします。

 

3段階の援助チーム

 「チームとしての学校」の中で、心理職が活動していくためには校内連携の仕組みの中で機能していくことが求められる。校内連携の仕組みは、3段階の援助チームとして整理することができる。3段階の援助チームとは、マネジメント委員会とコーディネーション委員会と個別の(子どもの)援助チームである。学校での意志決定やチーム学校におけるタテの連携やヨコの連携と深く関わっているシステムである。

 

1.マネジメント委員会

 マネジメント委員会は、学校の運営に関わる情報や問題意識を共有し、方針や対応策を検討し、意志決定を行うという機能を果たすチームである。メンバーは、校長、教頭、教務主任、生徒指導主任などであり、週1回程度開催され教員の時間割に組み込まれていることが多い。運営委員会や企画委員会などの名称で呼ばれていることが多い。心理的な支援(心理教育的援助サービス)にかかわる意志決定をするだけではなく、運動会の日程や種目、修学旅行の日程など学校全体の活動に関連することを決定することがマネジメント委員会の役割である。

 

 2.コーディネーション委員会

 コーディネーション委員会は、生徒指導上の課題について情報共有し、方針や対応策を検討して意志決定を行うチームである。各学年の生徒指導担当の教員、特別支援担当コーディネーター、養護教諭がメンバーになっていることが多い。スクールカウンセラーもメンバーとして参加していることも多い。例えば、いじめのアンケート結果が共有されて、被害を訴えている子どもをどんなふうに支援するかを検討します。そして、その子どもにスクールカウンセラーのカウンセリング受けさせるという方針を決定するというような機能を果たす。また、個別の援助チームの活動を促進したり、マネジメント委員会と個別の援助チームをつなぐ役割を持っている。

 

3.個別の援助チーム

 不登校やいじめなど高い援助ニーズ(3次的な援助ニーズ)を持つ子どもへの支援(3次的援助サービス)は原則的にこの個別の援助チームによって行われる。つまり、3次的な援助ニーズを持つ子どもの数だけ、この個別の援助チームは存在する。メンバーは必ずしも顔を合わせて会議を持つわけではなく、お互いに目標と情報を共有して連携して子どもを支援して実質的にチームとして機能することが重要である。時間割には組み込まれておらず必要に応じて持たれている不定期なチームである。文献によっては個別の子どもの援助チームと記述されることもある。

 

 

コーディネーション委員会の4つ機能(家近・石隈、2003)

3段階の援助チームによる連携の実際

 以下に、実際にどんなふうに3段階の援助チームが機能しているのかを仮想事例をとおして説明する。以下は、あくまでも3段階の援助チームについての説明のために作成された事例であり、実際の事例に言及するものではない。焦点は、事例の内容ではなく、3段階の援助チームがどのような役割を果たすのかということにある。

 

①転入生の保護者が挨拶と打ち合わせのために来校

7月上旬、新入生となる予定のAさん(中1)の両親が来校。教頭と生徒指導主任が対応した。Aさんは小6初め頃から痩せ始め摂食障害との診断。2学期から入院して治療を受け、3学期から入院。自宅新築のため近隣市町村から校区内に転居してきた。それに伴いAさんも中学校の2学期(9月)から転入したいとのこと。病状が回復してきたため一時帰宅を試している。状況が良いので、7月に退院の予定。その他、Aさんについての情報や治療の経緯が保護者から得られた。

 

②マネジメント委員会での情報の共有と対応策の検討

 保護者の来校の直後のマネジメント委員会では、教頭から大まかな情報が語られ、メンバーに共有された。転入クラスを仮決定。方針としては、生徒指導部会で話し合って支援体制を整えることが確認された。生徒指導部会へのスクールカウンセラーの参加も要請することになった。

 

③コーディネーション委員会での具体的な方針の検討

 定例のコーディネーション委員会が開催され、スクールカウンセラーも参加した。Aさんについての情報が共有され、第1学年の学級の状況を確認した。それを受けて、Aさんの転入にともなって想定される問題を検討して話し合った。体力の回復状況、学校生活への参加可能性などが、不明であり、学校に求められる配慮が詳しく分からないということが課題としてあげられた。転入までは時間があるため、直前になって状況を確認することが必要であることが話し合われた。また、その時のまた保護者からはどのような要望がでてくるのか今の段階では分からないということが挙げられた。対応としては、夏休みの始め二学期の直前に、学年主任と担任と養護教諭で保護者から話を聞き状況や要望を確認していくこととなった。保護者の要望や病状に応じて、主治医と情報交換やSCとのカウンセリングが必要になるとのことも確認された。

 

④保護者、担任、養護教諭の3人での話し合い(個別の援助チーム)

 8月の上旬に、本人の状態や意志、保護者としての考えや要望について保護者から聞き取った。保護者も本人も、学校に慣れるためにしばらくは保健室登校を希望したいとの要望があるとのことであった。状況がよければ、午前中に登校して、2時間程度授業に参加し、2時間程度は保健室で過ごしたいとのことであった。また、病院との連携については保護者からの承諾が得られた。クラスへの紹介について新学期直前に保護者や本人に詳しく確認することが共通理解された。スクールカウンセラーへの相談を促したところ、保護者は前向きな反応であった。

 

⑤コーディネーション委員会での情報共有と支援策の検討

 保護者からの情報を詳しく伝達し共有。保健室登校について検討した。長時間利用の可能性があるが、1日1時間までとのルールで運用されているため、特例として認めるかどうかマネジメント委員会に諮る必要があるとのことが確認された。スクールカウンセラーと保護者との面談を設定、本人とは2学期になって登校してきた場合に状況に応じてカウンセリング実施することとなった。養護教諭が窓口となり病院との連携を行う方針を決定した。これらを、マネジメント委員会へ報告することが確認。

 

⑥マネジメント委員会での情報共有と確認

 保護者からの情報の概要を報告し、コーディネーション委員会での話し合いについて報告した。保健室の長時間利用については、例外として認めることと決定した。養護教諭と病院の連携(予定)について報告し、了承が得られた。

 

⑦保護者、SC、養護教諭の3人で面談(個別の援助チーム)

 8月下旬に、スクールカウンセラーと保護者の顔合わせを行い、本人のSC利用について学校の方針を説明した。本人の状況について確認し、最初の登校日について確認した。保健室利用について報告と確認。

  

 

引用文献

文部科学省

 チームとしての学校の在り方と今後の改善方策について(答申)(中教審第185号)

 

家近早苗・石隈利紀 2003

「中学校における援助サービスのコーディネーション委員会に関する研究-A中学校の実践を通して」 教育心理学研究 51 210238