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公認心理師と臨床心理士ー専門性について

人間関係の解釈についての三角形

 公認心理師の現任者講習会に行ってきました。公認心理師が身につけておくべき基礎知識を中心に学んできました。

 

 公認心理師の主な活動分野は、保健医療、福祉、教育、司法・犯罪、産業・労働の5分野です。その全ての分野で、連携が強調されていました。

 

 ところで、主として臨床心理士が今まで担ってきた伝統的な心理療法は、治療関係以外の外部の資源との連携をあまり重視してきませんでした。例えば、学校心理士の活動ではまずチーム援助が強調されていますが、それと比較しても治療の構造を大切にして、治療関係の中での意味ある関わりに焦点が当たっていました。公認心理師の活動は、学校心理士の活動と似ていて、治療関係(カウンセラーとクライエント)以外の資源(人や制度など)とどうつながっていくか、ということに焦点があるように理解しました。このことを臨床心理士から見ると、公認心理師の資格制度によって心理療法を行っていく力量が保たれるのかという疑問につながってきます。この疑問はある意味ごく当然の疑問だと思います。

 ところで、心理療法だけが心理的なケアや治療なのでしょうか? もちろん、そうではありません。多くの人が日常生活の中での人との関わりの中で、心理的なケアや治療につながる人間関係を体験しているはずです。

 つまり、心理的なケアや治療は、心理療法だけによって生じているわけではなく、日常生活の中でも生じていると言えます。実は、こういった考えは、今までも心理的なケアや治療に取り入れられてきました。例えば、児童虐待を受けた子どもの心のトラウマを癒やす関わりにもこの2種類のアプローチが行われています。養護施設では、専門の心理職から心理療法を受けて心理的なケアや治療を受けています。そして、日々の生活の中ではスタッフからの関わりが心理的なケアや治療につながっています。

 

 

以上のように、臨床心理士の活動と公認心理師の活動における焦点の違いは、取り立てて新しいものではなく、昔からある、アプローチの違いと共通するものだととらえれます。それは、対立するものではなく、相互に補完するものです。どちらも必要なのです。臨床心理士が公認心理師の資格を取得することによって、日常生活の中で支えられケアを受けていくことにも目を向け、さらにそれによって、心理療法が支えられるという良い循環が生じることを願っています。

 

 図は、公認心理師現任者講習会テキスト(2018年版)のp203にある図の一部です。これは、心理力動的心理療法(精神分析にルーツのある心理療法)における、解釈について説明する模式図です。右上の「今ここの治療関係」が心理療法の中で生じていることで、それを、「現在の生活場面における人間関係」、「過去の養育者との人間関係」と結びつけて解釈をすることが一つの関わり方であることを模式的に表しています。

 臨床心理士と公認心理師の活動の焦点も、この模式図と重なっているように思います。臨床心理士の活動の焦点は、「今ここの人間関係」です。面接室の中で変化させたり活用できるものは、ここしかありません。必然的に「今ここの人間関係」が焦点となります。連携を考えていくと、「現在の生活場面での人間関係」も視野に入ってきます。ここも連携を通して働きかけることによって、クライエントにとってプラスになる方向へ変化させ活用していくことができるわけです。ここが公認心理師の活動の焦点となるようです。こんなふうに整理すると、臨床心理士と公認心理師は相容れないものではなく、両方の資格(考え方)を持つことがクライエントの利益につながっていくことになるのだと考えられます。

 なお、以上の議論は臨床心理士や公認心理師について、役割や活動範囲を最小限に捉えて進めてきました。両者はそれほど明確に区別できるものではなく、両者は相互に似通っている部分の方が多いと思と思われることを書き添えておきます。

 

公認心理師現任者講習会テキスト(2018年版)
公認心理師現任者講習会テキスト(2018年版)