不登校や登校しぶりなど学校に行きづらい状態の背景には、様々な要因が隠れています。主なものを上げます。
子どもの側の要因の例
・感覚統合が未熟で感覚情報の処理に苦労が大きい
・感情調節に苦労が大きい
・トラウマ記憶によって不安や不快が生じている
学校の側の要因の例
・感覚刺激の種類が多く、強さの程度も大きい刺激がある
・いじめや嫌がらせがあった(続いている)
・本人に合っていない難易度や指導方法で学習指導が行われている
・厳しすぎる教員の指導があった(続いている)
こういった要因が複雑に絡み合っているため、単純な方法や画一的な方法では、お子様の状態の改善につながりにくいと考えられます。
トラウマによる影響
ここでは、子どもの側の要因の3つ目に書いた【トラウマ記憶によって不安や不快が生じている】という要因に注目します。つらい体験がトラウマとなっている場合、学校とは違う場面でも、何らかのきっかけによってトラウマ記憶が活性化されて、不安や不快が生じてしまいがちです。
例えば、スーパーに買い物に行く時にも、同年代の子どもの姿を見かけたことがきっかけとなって、トラウマ記憶が活性化され強い不安が生じることがあります。そのため、駐車場で車から降りられなくなってしまうという可能性があります。ほかにも、フリースクールに行く時にも同じようなことが生じる場合があります。
多くの場合、大人は子どもの安心感を高めようとして「大丈夫だよ」などと言って聞かせるのではないかと思います。しかし、それでは子どもの安心感は高まりません。脳の原始的な仕組みで反応が生じているからです。ところで、梅干しの写真を見るだけ唾液が出てくる人が多いのではないかと思います。きちんと写真だと理解していて、今からその写真も梅干しも食べるわけではないことも理解しているのに、唾液が出てきます。理性的には理解できても、生理的な反応は変わらないのです。実は、不安などの感情は一種の生理現象なので、大人が言い聞かせても不安は下がらないのです。
このようなことが生じてしまうため、トラウマ記憶によって不安や不快が生じている場合には、子どもの学びや成長の機会が非常に少なくなってしまうことがあります。【学校に行った方がよい】【学校に行かなければならない】ということではありませんが、子どもたちを苦しめているトラウマ記憶の影響を小さくすることは、極めて大切だと言えます。
不登校とトラウマについては以下の2つのブログ記事もご参照ください
中学時代のトラウマから高校生になって不登校になる場合があります
トラウマケアのカウンセリング
トラウマケアのカウンセリングでは、PE(持続エクスポージャー)やEMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)などの手法が効果的であることが分かっていて、活用されてきました。しかし、これらの手法は、トラウマ記憶をしっかりと思い出したり語ったりすることが必要で、それがひとつのハードルとなっていました。
ところで、学校に行きづらい子どもは、辛いことや苦しいことを話さないことが多いと思われます。また、大人が学校のことに触れようとすると怒り出したりその場からいなくなったりして話せないこともよくあることだと思います。これらは、【回避】というトラウマでよくある症状のため、無理もないことです。しかし、上記のように学びや成長の機会が少なくなってしまうことが大きな問題です。
こういったことから、子どもたちにとって、無理のない方法でトラウマケアのカウンセリングを行うことが非常に大切だと考えられます。
その一つの方法が、フラッシュテクニックという手法です。フラッシュテクニックは、EMDRのトレーナーであるマンフィールド博士がEMDRをもとにして開発した手法です。トラウマ記憶にあまり触れずに進めていくことができる点で、子どもにも非常に負担が少ない方法です。また、効果がなかった場合でも、(心理的な負担が少ないため)この手法による悪影響が生じることもほとんどありません。
そういう点から、子どもへのカウンセリングで活用することは、非常に利点が大きいと考えられます。
注意点
最初に書いたように、不登校や登校しぶりの背景には様々な要因があります。トラウマケアが適切に行われたとしても、その他の要因が解消するわけではありません。子どもの成長を促していくためには、その他の要因に対しても適切なケアやサポートが重要です。
フラッシュテクニックの紹介(子どもの皆さんへ)
人は誰でも、前にあったつらい出来事の記憶が頭の中に出てきて、余計に苦しくなったりこわくなったりすることがあります。それがすごく大変な場合、やりたいこともなかなかできなくなってしまうことがあります。
そういう時に、役立つのがフラッシュテクニックという方法です。この方法は、脳がもともと持っている情報処理の力を活用して、つらい記憶を整理したり処理したりする方法です。つらい記憶が整理・処理されると、その記憶が頭に出てきても、苦しい気持ちやこわい気持ちがあまり生じなくなります。記憶自体は消えないのですが、その記憶が持っている生々しさが減るのです。保存されていた記憶がカラー写真だったものが、だいぶ色あせた薄い色の写真になるという感じです。
このフラッシュテクニックという方法の良いところは、つらい記憶について詳しく思い出したり話したりしなくても良いというところです。ちょっとだけ思い出してもらうだけです。その後で、すごく楽しいことやワクワクすることに集中しながら、すこし体を動かすようなことをします。そうすると、脳の力が働いて、つらい記憶が自然に整理されたり処理されたりするのです。脳は、眠っている時でもぼんやりしている時でも、知らず知らずの間にたくさんの仕事をしています。それと一緒で、つらい記憶のことを詳しく考えたり話したりしないのに脳が働いて自然に整理・処理してくれます。
世界中でたくさんの人が、この方法でつらい記憶から生じる苦しい気持ちやこわい気持ちから自由になりました。つらい気持ちやこわい気持ちから自由になると、自分がもともと持っている良いところが自然に発揮しやすくなります。たくさんの人が、自分のやりたいことを今よりも楽しめるようになっています。
あなたも、おうちの人やカウンセラーと協力して、このフラッシュテクニックという方法を使ってみませんか?