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夫婦げんかが子どもの脳に影響

 NHK「クローズアップ現代」で、12月13日に「夫婦げんかで子どもの脳が危ない!?」という特集が放送されました。日常的に繰り返される激しい夫婦げんかは、子どもの脳を傷つけているということです。子ども自身が暴言暴力を受けて育った場合に悪影響があるという話ではなく、子ども自身は暴言暴力を受けない場合でも、悪影響を受けてしまうということです。これは、現場での実感と全く一致する内容です。脳がどうなっているかは、子どもと関わっているだけでは分からないのですが、悪い影響を受けているということは非常に良く分かります。

 

 子どものカウンセリングを行っている立場の者から考えると、子どもの心のケアをどうしていくのが良いのかということが一番気になります。番組で紹介されていた1つの方法は「宝物ファイル」という方法です。

 この方法は、福井県の小学校の先生だった岩堀美雪さんが実践されてきた方法です。「岩堀 美雪の“教師が楽しむ宝物ファイル”」(教職員共済)のページで詳しく紹介されています。簡単に説明するとちょっとした成功や楽しかった思い出につながる表彰状や作品(の写真)や自分自身の良いところや頑張ったところを子どもたちが自分でクリアファイルに入れて保存していくという実践です。一種の、個人ポートフォリオです。これをとおして、母親が子どもの良いところに改めて気づいたということが、子どもの心のケアにつながっていたというケースが紹介されていました。

 心や脳にダメージを与える不快な体験というのは、トラウマ的な記憶となって心の奥底に「凍り付いて」眠っているといわれています。実は、夫婦げんかも、その瞬間に子どもの心や脳にダメージを与えるだけではなく、「記憶」のなかで子どもの心や脳にダメージを与え続けているのだと思います。つまり、その夫婦げんかにさらされたという体験だけではなく、それが心にこびりついてしまっていて、その「記憶」が問題なのです。

 そういう意味で、「宝物ファイル」という方法は、良い記憶を形としてとどめておくということができます。宝物ファイルをみるだけで、頑張っている自分、楽しんでいる自分、充実している自分を思い出すことができるのです。不快な記憶からダメージを受けるのではなく、自分自身の良い記憶を通して自分を確認したり、自己肯定感を高めていったりすることができるわけです。「記憶」というやっかいなものに、上手く対処する良い方法だと感じました。

 余談ですが、「記憶」は人間を発展させてきた人間の素晴らしい能力ですが、同時に人間を非常に苦しめています。会社であったイヤな出来事はその瞬間にストレスになるだけではなく、家に帰ってからも、それが思い出されてストレスを感じ続けるわけです。そういった問題に対処している方法の一つが、今はやりの「マインドフルネス」です。今ここでのこの瞬間に自分が感じていることに気持ちを向けてそれをマインドフルに感じ取っていくと言うことが基本になっているのです。イヤな記憶を思い出してそれに振り回されたりすることに時間を割かないのです。

 

 

 さて、夫婦げんかと子どもの心のダメージに話を戻します。

 番組ではあまり触れられていなかったのですが、ここでは、夫婦げんかの後の子どもへの対応について、もう少し詳しく説明してみます。ケンカの後の子どもへのかかわり方は、子どもの心の傷(つまり脳のダメージ)を軽減していくためには、非常に大切だと思われます。

 

 1つは、きちんと子どもに謝ることです。夫婦げんかで子どもに不安な思い辛い思いをさせたことをしっかりと言葉に出して謝ることが大切です。「お父さんとお母さんがケンカをして、○○ちゃんにイヤな思いをさせてしまってごめんね」などと謝ることです。両親ともに謝ることが大切ですが、どちらかだけが謝る場合には、「お父さんも(お母さんも)ごめんねって言ってたよ」と伝えることが大切です。

 

 2つめは、子どもの感情に目を向けて、子どもが自分で言葉にして表現できるように促すことです。「お父さんとお母さんがケンカしてたとき、○○ちゃんはどんな気持ちだった?」などと聴いてみると、子どもが「怖かった」などと応えてくれると思います。さらに「からだのどの辺に怖い気持ちがでてきたの?」などと聴いて、そのあたりを子どもと一緒になでてあげたりすることも良いケアになると思います。ここでも「ごめんね」などと謝ることが大切です。

 

 3つめは、子どもに“子どものせいではない”と明確に言葉で伝えることです。子どもは、良いことが起きたときにも悪いことが起きたときにも自分と結びつけて考えてしまいます。例えば、遠足の日に雨が降って遠足に行けなかった場合には、「自分が悪い子だから雨が降ったんだ」などと考えてしまうのです。親のケンカに直面した子どもは、「自分が悪い子だからお父さんとお母さんがケンカするんだ」というふうに捉えてしまいます。だからこそ、言葉で明確に「あなたが悪いわけではない」と伝えることが大切です。

 

 4つめは、仲直りしたということを行動と言葉で子どもに伝えることが大切です。仲直りした姿を子どもに見せることは大切です。それを通して、子どもが安心感を感じるからです。さらに言えば、「お父さんがお母さんにごめんなさいって、謝って、お母さんもお父さんにごめんなさいって謝って、それから2人でハグして仲直りしたよ」などと言葉で伝えるともっと良いと思います。

 

 いずれも、言葉で伝える、言葉で表現するということが非常に大切なのです。様子を見たりして自然に分かっていることであっても、言葉で伝えることを通して、より“ハッキリ”分かるので、子どもの安心感が高まるのです。それだけではなく、言葉というのは、記憶にとどめておきやすくなります。ダメージを与える記憶そのものを消してしまうことは難しいのですが、それを言葉で上書きして、一つの良い結末に到達するストーリーを心の中に残していくことができるのです。

 “イヤな思いをさせてしまったから、そっとしておく”という方法だけでは、そのイヤな記憶から子どもを救うことができません。しっかりと説明や意味づけを行い、子どもの理解を促すことが子どもの安心感につながります。

 

 さらには、こんなふうにケンカをした後に子どもに関わることは、子どもの心のケアをするだけではなく、子どもが人との関わりかたを学ぶことにつながります。

 

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