子どもたちへの、SOSの出し方教育が少しずつ実施されるようになってきました。子どもの命を守るために、子どもが大人に相談できることは、非常に大切なことです。
しかし、子どもにSOSを出すように促す教育を行う前に、まだまだ大人の側が変わらなくてはならないと思います。子どもがSOSを出したときに、大人がきちんと受け止めなかったら、子どもがさらに傷ついてしまう可能性があります。
【SOSの出し方】より【SOSの受け止め方】が大切
ところで、いじめによる自死事案の第三者委員会の報告書をいくつか見てみると、子どもがSOSを出していた事例がいくつもあります。子どもが自死に至ってしまうのは、SOSが出せなかったからではなく、大人が子どものSOSを受け止めなかった場合もあります。
つまり、子どものSOSを大人がきちんと受け止めるようになることが最初で、その後に子どもがSOSを出せるようにすることが大切だと思われます。
【SOSの出し方教育】の実際
では、実際の【SOSの出し方教育】はどんな内容かを見てみたいと思います。
東京都は、平成29年度に自殺予防教育推進委員会を設置し、学校における指導の在り方等について検討してきたそうです。そして、このたび、学校における自殺予防教育を推進させるため、「SOSの出し方に関する教育」を推進するための指導資料として、平成30年2月に、授業で活用できるDVD教材を作成し、都内全公立学校に配布したということです。
その指導資料や動画は、東京都のホームページから閲覧・ダウンロードすることができます。以下のリンク先からご参照ください。
「SOSの出し方に関する教育」を推進するための指導資料について
中学生向けの動画教材では、前半と後半に分かれています。
前半は約10分で、
(1) 一人一人が大切な存在であることに気付く。
(2) ストレスの概要について知る。
・ストレスは、心と体に負担がかかった状態であること。
・ストレスには、様々な原因(ストレッサー)があること。
・ストレスの感じ方には個人差があり、影響にも違いがあること。
などが、解説されています。
前半の最後に、「つらい気持ちになった時に、どのような対処をしているか」を自分なりに考えてみて、その後、生徒どうしで伝え合うように投げかけがあります。
そして、後半(約10分)で 対処法について解説がなされて、信頼できる大人に相談するように子どもたちに投げかけています。
【SOSの出し方教育】DVD後半
DVD後半で子どもたちに語りかけている内容は以下の通りです。
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自分がつらい気持ちになった時、どのような対処方法がありましたか?
このような対処方法もあります。 大声で叫ぶ、思い切り歌う、せんべいをバリバリ食べる、氷を強く握りしめる。
氷を握ると、冷たくて痛いのですが、気持ちが落ち着くという効果があります。
つらい気持ちになったときの対処方法は様々ですが、自分ができる方法、自分に合った方法を知っていることはとても大事なことです。
でもやはり、一番のお勧めは・・・、
身近に居る信頼できる大人に話すという方法です。
家族、地域の方、地域の保健師さんにも相談ができます。
学校ならば、担任や養護教諭、部活動の顧問の先生、スクールカウンセラーの方など、相談しやすいと思う人に話してみてください。
自分の思いを言葉にしてみると、話しているうちに「自分ってこんなふうに思っていたんだ」と自分自身の気持ちに気づくことがあります。
どんなことがあって、どんなふうに感じて、どうしたいのか・・・。自分のことを客観的に見られるようになります。自分の思っていることが整理されて、心の苦しさが軽くなります。
自分の悩みを話すということは、結構、勇気がいることです。「こんなこと言ったら笑われちゃうかな…」とか、「ダメな子と思われるんじゃないかな…」とか。
でも、あなたが「この人なら分かってくれるかもと」と思う人に、少しだけ勇気を出して話してみてください。
勇気を振り絞って話したのに、「そんなこと言ってないで、頑張りなさい」と言われてしまうこともあります。実は、分かってくれる大人に出会うことは、大変なことなのです。
だから、少なくとも3人の大人に話してみましょう。 その中で、「それは大変だったね。」と、あなたの気持ちを真剣に受け止めてくれる大人がいたら、その人があなたのことを分かってくれる人、信頼できる大人です。その人が見付かったら、一緒に考えてもらいましょう。
信頼できる大人に出会えなかったという場合でも、大丈夫です。 心の苦しさを相談する場所、相談機関があります。 相談機関に、電話やメールなどで相談することも解決方法の一つです。後ほど、相談機関の連絡先が載った資料を配ります。
もし、友達がつらそうにしていたら、あなたらなら、どのような声を掛けますか? 「大丈夫?」とか「どうしたの?」などと声を掛ける友達の話を批判しないで、よく聞いて上げてください。
そして、友達の気持ちが落ち着いたら、信頼できる大人を一緒に探しましょう。もし、「誰にも言わないで」と言われたら、「自分たちだけでは、解決できないから、一緒に誰かに相談してみよう」と伝え、信頼できる大人のところに一緒に相談に行ってあげましょう。
皆さんに一番伝えたいことです。
心が苦しい時や、身体の調子がおかしいという時は、一人で悩みを抱え込まないでください。助けを求めることは、恥ずかしいことではありません。
誰かに相談すること、助けを求めることは、自分を大切にする行動です。
世の中には、信頼できる大人が必ずいます。
どうか苦しいときには助けを求めてください。
自分を大切に、相手を大切に、一人一人を大切に。
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DVD公判の内容は以上です。
【少なくとも3人の大人に相談】するように促すことは良いのか?
DVDでは、子どもたちが、辛い気持ちになっているときに、【少なくとも3人の大人に相談】するように求めています。
そもそも、辛い気持ちでいっぱいになっているときに、3人もの大人に相談するように求めることは、子どもに負担を強いています。辛い人にまず負担を求めることがそもそもおかしいと思います。しかも、その大人は、SOSをしっかりと受け止めてくれるとは限らないわけです。
だから、DVDでは、「実は、分かってくれる大人に出会うことは、大変なことなのです。」と、苦しい言い訳をしています。
悪意のある大人に相談してしまう可能性
3人の大人に相談したら、悪意のある大人に出会ってしまう可能性があるのではないかという危険性を感じます。
ネットのゲームやアプリなどで、ネットの中でネットのだけつながりを持っている子どもたちも多くいます。例えば、学校の先生に相談したときにSOSを受け止めてもらえなかった子どもたちは、心がさらに傷ついてしまうでしょう。そんな場合に、ネットの中のつながりのある人に相談することは、容易に想像できます。
実際、Twitterで知り合った大人から被害を受けた子どもたちがいます。大人が悪意を隠して子どもに近づいてきて、子どもの相談に乗ってあげているようです。子どもは、その大人について、「相談を聞いてもらえた」「優しかった」などと感じて、その大人を信頼してしまうようです。
つまり、SOSを3人の大人に出すように求めることは、リスクを高めるのです。
【SOSの出し方】よりも【SOSの受け止め方】を広めるべき
つまり、SOSの出し方教育は、2つの点で、大きな問題があるのです。
1.子どもに負担を強いている
2.悪意のある大人に出会ってしまうリスクを高める
こういったリスクを避けるためには、【SOSの出し方教育】の前に、【SOSの受け止め方】を大人に広めるべきだと思います。
その後で、【SOSの出し方教育】を行うことが大切です。