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学校でのいじめ加害者への支援

 文部科学省の「問題行動・不登校調査」の結果が公表されました。2017年度に認知された「いじめ」の件数が、41万4378件で、2016年度よりも9万1235件も増加していたという結果です。過去最多の認知件数で、特に、小学校の低学年での増加傾向が顕著だったということです。

 

 いじめが生じている場合に、被害者への支援が優先されますが、加害者にどんなふうに支援していくかについてしっかりと考えていかなくてはいけないと思います。

 

学校の教室

加害者へのありがちな指導:厳しく指導する

  中1のAさんから担任に「クラスのBさんから、モノを取られたり隠されたりして、いじめられているんです」と訴えがあったとします。この訴えを例として、にどのように対応し指導しいるのかを考えていきます。

 

 数年前までは、丁寧とは言えない対応が一般的だったと思います。すぐに、Bさんを呼び出して、Aさんからの訴えを伝えて、事実関係を確認します。そのうえで、AさんとBさんの2人を会わせて、BさんからAさんに謝罪させて、指導が終わります。

 こういった指導をすると、Aさんへのいじめが潜在化しつつ程度や頻度が悪化して深刻化することがあります。

 

 最近では、事実関係の確認を丁寧に行ったうえで指導することが一般的となりました。アンケートや周囲の子どもへの聞き取りなどを重ねて事実関係を丁寧に把握していきます。アンケートに具体的なことが書いてあることもありますし、具体的でない場合には、それを手掛かりにして、生徒から個別に聞き取りをして、事実関係を明らかにしていきます。

 

 その事実関係をもとに、Bさんを指導します。学校では、いじめを積極的に発見することと、いじめを解決することが求められていますので、加害者であるBさんを、厳しく叱ったり、強く指導して反省を促すことが多いと思います。

 

 そのうえで、AさんとBさんの2人を話し合わせて、Bさんから謝罪をさせて、指導が終わるということになります。

 

 そして、再発がないかどうか、3か月程度は注意深く見守ることが求められています。

 

 

いじめ加害者を厳しく叱る指導では逆効果になりがち

 過去の丁寧ではない指導が加害者への指導としては効果が低く、被害者を守ることにつながらないという問題があることは自明です。

 

 しかし、最近の事実関係を丁寧に明らかにしたうえでの指導も、加害者への指導としては問題があります。

 

 それは、加害者が心から反省して謝罪できるとは限らないという点です。

 

 厳しく叱って反省を促していますが、厳しく叱ったから反省できるわけではありません。厳しく叱られると、かえって反発したりふて腐れたりしがちです。また、子どもは黙って聞いて、時々、返事を求められるところで、「はい」と返事をすればOKなので、しっかりと考えながら聞く必要もありません。

 

 また、謝罪すれば、その件では叱られることもないので、形だけの謝罪をしてお終いにしてしまう子どもも多いと思われます。

 

 ところで、最近では「指導死」も注目されるようになりました。学校で厳しい指導を受けた子どもがその直後に自殺をしてしまうというものです。学校の先生方も、そういったリスクを避けたいと感じていますので、厳しい指導は行われにくい状況にあります。

 

 つまり、厳しく指導することは、本来の効果が低く、リスクも考えざるを得ないため、あまり良い方法とは言えないのです。

 

 では、どのような方法で、いじめの加害者側の子どもを指導したらよいでしょうか?

 

 ここでは、一人で長時間考えさせるという指導をお勧めします。

 

 

学校の職員室

いじめ加害者への指導で目指すところ

 いじめ加害者への指導は、厳しく叱って終わりではありません。指導の結果、いじめ加害者が、本当に反省して、二度といじめ行為を行わないことが大切です。

 

 本当に反省するというのは、次のようなことが心の中で生じることが大切でしょう。

  • 相手の傷ついた気持ちを理解している
  • 自分がなぜそういう行動をしてしまったのか理解している
  • 今後、自分がどうすればいじめ行為を行わないのか理解している

 

いじめ加害者への効果的な指導のポイント

 

 上記の三点について、大人がうるさく、厳しく言っても、それが子どもの心の中に定着するとは言えません。加害となった子ども自身が自分で考えて、自分なりに理解を深めることが大切です。厳しく叱ることは、上述のように、ほとんど意味がありません。

 

 しかも、大人が子どもを厳しく叱ると、子どもの心に非常に大きな負荷が加わるため、子どもが自分自身を見つめたりじっくり考えたりすることができなくなります。

 

 子どもが自分自身を見つめ、じっくり考えるためには、じっくりと自分を考えさせるための時間と場面設定が必要です。

 

 【事実確認】→【厳しく叱る】→【謝罪】という流れではなく、【事実確認】→【考えさせる】→【謝罪】という流れが大切です。

 

 自分でじっくりと考えさせるためには、効果的な場面設定と効果的な働きかけが必要だと思われます。ただ、考えるように言っても、なかなか考えられるものではないからです。

 

加害者が自分を見つめられるようにする指導

 

 自分で考えさせる指導には、被害を受けた児童への謝罪についての「作文」を、ひとりで考えさせる指導をおすすめします。

 

 ポイントは、ある程度の時間をかけて一人で考えさせるということです。

 

 いじめを行う子どもは、人とのかかわりを強く求めています。いじめをする場合も、相手の子どもの反応を楽しんでいる面があります。実は、厳しく指導されることも、人とのかかわりの一種として感じられてしまいます。いじめを行う子供にとっては、厳しく指導されることも、いじめたり、いじめられたりという人間関係の延長として感じられる側面があるのです。そして、自分を指導してくる教員への反論を考えたり、揚げ足取りを考えることに終始しがちです。それは、自分でじっくり考えるということとは程遠い状態です。

 

 こういったことから、いじめを行う子どもの指導は、大人がかかわりを最小限度にして、一人にすることが、一番大切です。そして、ある程度の時間をかけます。例えば1時間程度、一人で考えるという体験は、子どもにとっては、うんざりする不快な体験となると思います。自分に向き合うというのは、ある程度心に負担がかかるものですが、そういう体験が、いじめ行為をしないための指導の効果を高める側面があります。

 

 指導の内容は、相手に謝罪するときに自分が謝罪する内容を作文にするという指導をお勧めします。

 

 「謝る内容を作文に書くように」と指示をして、別室に一人にします。担任ではない、生徒指導の教員から指示をするのが良いと思います。教員が一人張り付く必要があると思いますが、できるだけ、声をかけるなどのかかわりを持たないようにします。

 

 作文をどう書くかについて手掛かりを与えずに一人で考えさせます。書きあがった作文は、生徒指導担当の教員が確認します。ほとんどの場合、不十分な作文になると思いますので、「もっときちんと考えて書きなさい」などと書き直しを丁寧に指示します。どんなふうに書いたらよいか手掛かりは与えないことをお勧めします。なお、適切な作文は以下のようなポイントがあります。

 

・何について謝罪するのか具体的な出来事の内容

  自分が行ったことと、相手の様子についての具体的、客観的な記述

・その時の自分自身の気持ちの動き

  相手について考えたこと、自分の感情(イライラした腹が立ったなど)

・その時の相手の気持ちについて(今の段階で)想像して気づいたこと

  つらかったに違いない、怖かったと思う、など

・相手に対する謝罪の気持ち

  申し訳ない、ごめんなさい、など

・二度と同じことをしないために、今後どうするのかについて具体的な内容

   イライラした時にどうするか、何か言われた時にどうするか、など

 

 反省する気持ちが伝わってこないとか、何について反省しているかわからないとか、伝えながら、一人で考えさせる時間をとらせます。1時間程度は時間をかけさせて一人で考えさせるのが良いと思います。

 

 自分で考えても作文が書けなくて、本人が困ってきた段階で、担任が手助けを出します。具体的に上記の項目を書けるように、本人と一緒になって考えたり、誘導したりしながら、作文を書けるように手助けします。

 

 担任と一緒に作成した作文を、本人が生徒指導の先生に提出して、OKをもらって、一人で考えさせる指導が終わります。

 そして、その作文をもとに、被害を受けた子どもに対して謝罪をするという手順となります。

 

 こういった手順で、一人で考えさせる指導をすると、厳しく指導して、謝って終わりという指導よりも、相手の気持ちについて考えて反省したり、「二度といじめをしないようにしよう」と反省したりできるようになると思います。

 

 

 

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