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「カオナシ」について考える 3

千尋とカオナシ

「カオナシ」という名前の意味

 「千と千尋の神隠し」では、「名」が非常に重要な意味を持っています。ところで、カオナシという名前は何を意味しているのでしょうか?カオナシは仮面をかぶっているように見えます。でもよく見ると、その仮面のような顔には、きちんと表情が現れています。表情があるわけですから、顔がないとは言えません。つまり、カオナシという名前は顔そのものがないという意味で使われているわけではないと思われます。

 顔という言葉は、目や鼻がある肉体の一部分としての顔を意味するだけではありません。「顔をつぶす」「顔を立てる」という言葉に表されるように、社会的な関係性の中で、その人の存在感を象徴的に表す言葉として使われています。つまり、カオナシという名前が意味していることは、物体としての顔がないという意味ではなく、社会的な顔を持っていないという意味ではないかと考えることができます。『「カオナシ」について考える 1』で触れたように、カオナシは、アイデンティティの拡散の状態にあることが名前にも象徴的に表現されていると考えることができます。

 

 

 以上、『「カオナシ」について考える 1』から、今回までカオナシについて考えてみました。カオナシは、自分自身のあり方に大きな問題を抱えています。そして、非常に未熟な面を持っています。特に、社会的な場面で人としっかり関わり合っていくことができない存在なのです。

 

 カオナシの抱える問題は、実は、現代に生きる全ての人に共通する問題だと考えられます。私たち自身も、職業生活・家庭生活など様々な場で、「自分らしく」生きられないという困難を抱えています。これは、一つのアイデンティティクライシスだと言えます。また、人との関わり合いの中でも、一緒に活動する関係(ともに眺める関係)を保つことができず、否定的な感情をぶつけ合う関係(見つめ合う関係)に陥りがちです。

 

 つまり、カオナシの姿は、現代に生きる私たち自身の直面する問題を、いびつなまでに大きく誇張して表現されていると考えることができます。しかし、物語の終盤では、そのカオナシも、何とかより良く生きていけるかもしれないという希望が描かれています。

 

 この後は、カオナシが成長していくことについて考えてみたいと思います。そのお話は、「カオナシについて考える 4」でどうぞ。

 

カオナシ(千と千尋の神隠し)